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東京高等裁判所 昭和30年(う)3626号の1 判決

控訴人 被告人 趙庸振

弁護人 木戸悌次郎

検察官 大沢一郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人木戸悌次郎作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対して次のとおり判断する。

論旨第一点について。

(二) 所論は、原判決認定のようないわゆる呑み行為なる事実があつたとしても、これは馬券購入方を依頼され、その相互の意思の諒解のもとに、金銭の授受が行われたのであつて、委託関係であり、競馬法違反罪は成立しないものであるから、原判決には、法令の適用に誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨主張するにより、案ずるに、原判決の認定にかかるいわゆる呑み行為なるものは、なるほど、勝馬投票券購入の委託という名義の下に行われているのであるが、しかし、その実体は、委託者においては、被委託者から、現実にその委託どおりの勝馬投票券の交付を受けることなく、ただ、自分が勝馬投票の的中者となつた場合に、競馬主催者が当該競走の的中者に払い戻す金額と同一金額の支払を受けることのみを期待するものであり、被委託者たる被告人らにおいては、当初より、現実には、委託どおりの購入をすることなく、ただ、万一的中者となつた場合にのみ、これに身銭をもつて払戻金と同一金額を支払うが、さもなければ、そのまま委託者より投票券一枚につき百十円(投票券面金額に手数料として十円を加算したもの)の割合によつて徴収した金員を利得してしまう方法によつたものであるというのであるから、このような方法によつて行われた被告人らの原判示所為は、真実勝馬投票券購入の委託を受けたものということはできないものであつて、競馬法第三十条第三号所定の地方競馬の競走に関し勝馬投票類似の行為をさせて利を図つた場合に該当するものと認めるのが相当であるといわなければならない。してみれば、原判決が、被告人の原判示所為に対し競馬法第三十条第三号、第三十二条、刑法第六十条等を適用処断したことは正当であつて、原判決には、この点につき所論のような法令の適用に誤があるものということはできないから、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

弁護人木戸悌次郎の控訴趣意

第一点(2)  又呑み行為なる事実があつたとしても、これは競馬法違反にならない。即ち、馬券購入方を依頼され、その相互の意思の諒解のもとに、金銭の授受が行われたのであつて、その本質はあくまでも委託関係であり、場合によつては詐欺が構成されるかも知れないが、競馬法所定の違反とは看做されない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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